マイナンバーカード未取得は入管法上の「公的義務」違反とみなされるかについて#
日本に在留する外国人の方々にとって、マイナンバーカード(個人番号カード)の取得は大きな関心事の一つです。日本政府が普及を強く推進している一方で、取得自体は法律上「任意」であると説明されることもあります。しかし、入管制度、特に永住許可申請や在留資格の更新において、このカードを所持していないことが「公的義務の不履行」とみなされ、不利益を被る可能性があるのかという点については、正確な理解が必要です。ここでは、現行法および今後の法改正の動向を踏まえ、客観的な視点から解説します。
そもそもマイナンバーカードの取得は義務なのか#
まず、前提となる日本の法律におけるマイナンバーカードの位置づけを整理します。日本に住民票を持つすべての人(中長期在留者を含む)には、12桁の「マイナンバー(個人番号)」が付与されています。この番号を持つこと自体は法的義務であり、拒否することはできません。
一方で、プラスチック製の顔写真付きICカードである「マイナンバーカード」の交付申請については、現時点では「任意」とされています。法律上、カードを取得しなければならないという罰則付きの強制規定は存在しません。したがって、一般論として、日本人がカードを作らないことと同様に、外国人がカードを作らないこと自体がただちに違法行為となるわけではありません。
入管法における「公的義務」とは何か#
永住許可のガイドラインなどにおいて重要視される「公的義務」とは、主に以下の要素を指します。
- 納税義務: 所得税、住民税などを期限内に完納しているか。
- 公的年金・医療保険の保険料納付義務: 厚生年金、国民年金、健康保険料を適正に納めているか。
- 出入国管理及び難民認定法に定める届出義務: 住居地の変更届出や、所属機関(勤務先等)に関する届出を行っているか。
現時点において、マイナンバーカードの「未取得」そのものは、上記の公的義務違反には直ちには該当しません。しかし、間接的に大きな影響を及ぼす要素が含まれています。
永住申請等における実務上の影響#
マイナンバーカードを持っていないことが、審査においてどのように不利に働く可能性があるのか、実務的な側面から分析します。
1. 納税・社会保険料の立証手段として#
近年、永住許可申請などの審査では、過去数年間にわたる公的義務の履行状況が厳格にチェックされます。以前は紙の領収書等を大量に提出していましたが、現在はマイナンバーカードを利用して「マイナポータル」等の公的サイトから納税証明や年金記録を取得・提示することが推奨され、あるいは審査の迅速化に寄与しています。 カード未取得の場合、これらの証明に手間取り、審査官に対して「行政手続きへの協力姿勢が低い」あるいは「情報の透明性が確保しにくい」という心証を与えるリスクは否定できません。
2. 在留カードとマイナンバーカードの一体化#
最も警戒すべきは、今後の法改正による制度変更です。政府は、将来的には「在留カード」と「マイナンバーカード」を一体化させる方針を打ち出しています。 現在、中長期在留者には「在留カードの常時携帯義務」が課されており、違反には刑事罰もあります。もし両カードが一体化されれば、事実上、マイナンバーカード(新在留カード)の取得と所持が、在留外国人にとっての法的義務となります。この段階に至れば、未取得は明確な「入管法違反」となり、公的義務の不履行とみなされることになります。
公的義務の履行状況と永住許可の取消し#
2024年の入管法改正議論において、永住者であっても税金や社会保険料の未納、あるいは住居地届出等の義務違反があった場合、永住許可を取り消すことができる制度の導入が進められています。 この文脈において、マイナンバーカードは行政側が個人の納税・社会保険情報を一元管理・把握するための鍵となります。カード未取得そのものが取消事由にはなりませんが、「適正な管理・監督を受けるための基盤」を持たないことは、将来的に「素行善良要件」や「国益適合要件」の判断においてマイナス材料となる可能性が高まっています。
まとめ#
結論として、現時点(本記事執筆時点)において、マイナンバーカード未取得のみをもって、直ちに「公的義務違反」として在留資格が取り消されたり、申請が不許可になったりする法的根拠はありません。
しかし、行政手続きのデジタル化、在留カードとの一体化、そして永住許可取消事由の厳格化といった流れを考慮すれば、カードの取得は事実上の「準義務」へと移行しつつあります。日本の社会制度に適応し、安定した在留を継続する意思を示すためには、カードを取得し、各種行政サービスと連携させておくことが、客観的に見て最も安全な選択肢であると言えます。