日本での政治活動やデモ参加が在留審査に与える影響#
日本に滞在する外国人の方々から、デモへの参加や政治的な意見表明が、将来のビザ(在留資格)の更新や永住申請に悪影響を及ぼすのではないかという懸念が聞かれることがあります。日本は民主主義国家であり、表現の自由が保障されていますが、外国人の政治活動に関しては、入管法および過去の最高裁判例に基づいた独自の法解釈が存在します。
ここでは、日本における外国人の政治活動の自由と、それが入国管理局の審査においてどのように評価される可能性があるのかについて、法的背景と実務的な観点から客観的に解説します。
外国人の政治活動に関する法的根拠(マクリーン事件判決)#
この問題を理解する上で最も重要なのが、1978年の最高裁判所判決である「マクリーン事件」です。これは、政治活動(ベトナム戦争反対運動など)を行ったアメリカ人の在留期間更新が不許可となったことに対し、その処分の取り消しを求めた裁判です。
最高裁は以下の二つの重要な判断を下しました。
- 政治活動の自由の保障 外国人といえども、日本の政治的意思決定やその実施に影響を及ぼす活動等、外国人の地位に鑑みこれを認めることが相当でないと解されるものを除き、政治活動の自由は憲法上保障される。
- 法務大臣の広範な裁量権 一方で、在留期間の更新を認めるか否かは法務大臣の「広範な裁量」に委ねられている。更新審査において、憲法上保障された政治活動を行ったことを理由に、法務大臣が「日本に在留させることが適当でない(消極的な事情がある)」と判断して更新を不許可にすることは、違法ではない。
つまり、日本国内でデモに参加したり政治的意見を述べたりすること自体は禁止されていませんが、入管当局がその活動を「日本にとって好ましくない」と評価し、結果として在留資格の更新を拒否することは法的に可能である、という非常に微妙なバランスの上に成り立っています。
具体的に審査へ悪影響を及ぼすケース#
判例上、法務大臣には広い裁量権がありますが、現代の実務において、単に平和的なデモに参加しただけで直ちにビザが取り消されることは通常考えにくいと言えます。しかし、以下の状況に陥った場合は、審査に甚大な悪影響を及ぼす可能性が高まります。
1. 刑罰法令に触れる行為(逮捕・起訴)#
デモ活動中に警察官と衝突し「公務執行妨害」で逮捕されたり、許可されていない場所へ侵入して「建造物侵入」となったりした場合です。たとえ不起訴(起訴猶予)になったとしても、逮捕歴や捜査対象となった事実は記録に残ります。入管法上の「素行善良」要件(特に永住許可申請時)において、こうした記録は極めてネガティブに評価されます。
2. 本来の活動を行っていない場合#
例えば、「留学」の在留資格を持つ学生が、学校に行かずに政治活動やデモに明け暮れ、出席率が著しく低下している場合です。この場合、政治活動そのものが理由ではなく、「在留資格に応じた活動を行っていない」ことを理由に更新が不許可となる可能性が高くなります。
3. 公共の平穏を乱す過激な活動#
暴力的な破壊活動や、テロリズムに関連する活動はもちろん論外ですが、そこまで至らずとも、日本の外交関係や国益を著しく害するような活動を主導していると認定された場合、入管法第5条(上陸拒否事由)や在留状況の不良を根拠に、厳格な審査が行われることになります。
永住許可申請における「素行要件」の厳格さ#
在留資格の「更新」と比較して、「永住許可」の審査は格段に厳しくなります。永住許可のガイドラインには「素行が善良であること」という要件があります。
通常の更新申請では問題とされなかった軽微な法令違反や、社会的に批判を浴びるような過激な活動歴が、永住審査の段階では「日本の社会秩序に適合しない」と判断される材料になり得ます。特に、特定の政治的主張を伴う活動において、周辺住民とのトラブルや警察の介入を招くような経緯がある場合、素行要件を満たさないと判断されるリスクは否定できません。
まとめ#
日本における外国人の政治活動やデモ参加は、直ちに禁止されているわけではありません。しかし、在留資格制度の枠組みの中では、以下の点に十分留意する必要があります。
- 法的な位置づけ: 政治活動の自由はあるが、在留継続の権利までが絶対的に保障されているわけではない(マクリーン判決)。
- 法令遵守の徹底: 刑法や道路交通法、条例などに違反する行為は、ビザ更新や永住申請において致命的なダメージとなる。
- 活動のバランス: 本来の在留目的(就労、学業など)を疎かにして活動に没頭することは避けるべきである。
自身の権利を行使する際は、日本の法令を遵守し、平穏かつ秩序ある方法で行うことが、安定した在留生活を維持するためには不可欠です。