日本の配偶者ビザ申請において婚姻届の遅延が問題視される理由#
国際結婚を経て日本で共に生活するためには、「日本人の配偶者等」という在留資格(通称:配偶者ビザ)の取得が必要です。この在留資格の審査では、二人の結婚が偽装ではなく、真摯な意思に基づいた「真実」のものであり、かつ日本で「安定的・継続的」な生活を送れるかどうかが厳格に審査されます。
多くの申請書類を通じて結婚生活の実態を証明していく中で、しばしば審査に影響を与える要素の一つに「婚姻届の提出時期」があります。交際開始から婚姻届の提出までに長い期間が空いている、あるいは在留資格の申請直前に届け出たといったケースは、なぜ結婚の真実性に疑念を抱かせる一因となるのでしょうか。この記事では、その理由を客観的な視点から解説します。
入管が審査で重視する「結婚の真実性」とは#
出入国在留管理庁(以下、入管)が配偶者ビザの審査を行う最大の目的の一つは、在留資格の取得のみを目的とした偽装結婚を防止することにあります。そのため、審査官は提出された書類一式から、二人が真に愛し合い、社会通念上の夫婦として共同生活を営む意思があるかどうかを慎重に判断します。
この「結婚の真実性」は、単に法律上の婚姻関係が成立しているという事実だけでは証明されません。交際に至った経緯、交際中のコミュニケーションの内容と頻度、お互いの家族への紹介、同居の事実など、様々な要素を総合的に評価して判断されます。審査官は、これら客観的な事実の積み重ねの中に、二人の関係性の実態を見出そうとします。
婚姻届の遅延が疑念を招く具体的な理由#
このような審査の前提がある中で、婚姻届の提出が遅れたという事実は、結婚の真実性を判断する上でマイナスの要素として捉えられる可能性があります。その理由は主に以下の3点に集約されます。
1. 社会通念との乖離#
一般的に、真剣な交際を経て結婚を決意したカップルは、特段の事情がない限り、できるだけ速やかに婚姻届を提出し、法的な夫婦関係を成立させたいと考えるのが自然である、という社会通念が存在します。この「自然な流れ」から大きく外れ、結婚の意思を固めてから(あるいは同居を開始してから)婚姻届の提出まで不自然なほど長い期間が経過している場合、審査官は「なぜすぐに法的な手続きを取らなかったのか?」という素朴な疑問を抱きます。この疑問が、二人の関係性の真摯さに対する疑念の入り口となるのです。
2. 在留資格取得が主目的である可能性の浮上#
婚姻届を提出したタイミングと、在留資格の申請のタイミングが極端に近い場合、特に注意が必要です。例えば、外国人配偶者の現在の在留資格の期限が迫っている状況で、慌てて婚姻届を提出し、直後に配偶者ビザを申請するといったケースです。 このような状況は、「在留期間を更新するため、あるいは不法滞在状態を解消するために結婚したのではないか?」という、いわゆる「ビザ目的の結婚」の典型的なパターンと酷似しています。入管はこのような偽装結婚を強く警戒しているため、申請のタイミングが不自然であると、結婚そのものの動機を厳しく問われることになります。
3. 共同生活の実態と安定性への疑問#
長期間にわたり同棲していながら、婚姻届を提出していなかった場合も同様の疑問が生じます。「共に生活していたのに、なぜ法的な責任を伴う関係に進まなかったのか」という点です。これは、二人の関係が安定的・継続的なものではなく、将来に対する真剣な約束(コミットメント)が欠如していたのではないか、と解釈されるリスクをはらみます。夫婦としての永続的な共同生活を送る意思があるならば、早い段階で婚姻という法的な形で関係を安定させるのが自然である、という見方が背景にあります。
遅延に合理的な理由がある場合の説明責任#
もちろん、婚姻届の提出が遅れたという事実だけで、直ちに在留資格が不許可になるわけではありません。重要なのは、その遅延に「合理的で、説得力のある理由」が存在し、それを申請者側が明確に説明する責任を果たすことです。
合理的な理由としては、以下のような例が考えられます。
- 両国の家族への挨拶や、結婚式の準備に時間を要したため。
- 外国人配偶者の本国での手続き(独身証明書など、婚姻に必要な書類の取得)に予期せぬ時間がかかったため。
- 新型コロナウイルス感染症のようなパンデミックの影響で、渡航や手続きが物理的に困難だったため。
- 遠距離恋愛であり、双方の仕事の都合上、すぐに同居して手続きを進めることができなかったため。
これらの理由がある場合は、在留資格申請の際に提出する「質問書」や、別途作成する「理由書」の中で、時系列に沿って具体的に記述する必要があります。なぜ遅れたのか、その間二人はどのようなコミュニケーションを取り、関係を育んできたのかを、メールの履歴や国際電話の通話記録、写真、送金の記録といった客観的な証拠を添えて丁寧に説明することが、審査官の疑念を払拭するために不可欠です。
まとめ#
日本における配偶者ビザの申請において、婚姻届の提出の遅延は、それ自体が不許可の直接的な原因となるわけではありません。しかし、それは入管に「結婚の真実性」を疑わせる重要なきっかけとなり得ます。審査では、社会通念に照らして自然な流れかどうかが一つの判断基準となるため、その流れから外れる場合は、なぜそうなったのかを合理的に説明する責任が申請者側に生じます。もし婚姻届の提出までに時間がかかってしまった場合は、その背景にある事情を客観的な証拠と共に誠実に説明することが、円滑な審査と在留資格の取得に向けた鍵となるのです。