高度専門職(HSP)経由で永住権を取得した後の転職・職種変更について#
高度専門職(Highly Skilled Professional, HSP)の制度を利用して永住権を取得された方から、その後のキャリアチェンジに関するご質問をいただくことがあります。特に「永住権を取得した後、これまでとは全く異なる職種に転職しても問題ないのか」という点は、多くの方が関心を持つテーマです。
結論から申し上げますと、永住権を取得した後は、原則として在留活動に制限がなくなるため、職種を自由に変更することが可能です。しかし、永住者としての地位を維持するためには、いくつかの重要な注意点が存在します。この記事では、永住権の性質を解説し、職種変更の自由度とそれに伴う注意点について、客観的な情報を提供します。
永住権と他の在留資格の根本的な違い#
まず理解すべき点は、「永住者」という在留資格と、「高度専門職」などの他の就労可能な在留資格との間にある根本的な違いです。
「高度専門職」や「技術・人文知識・国際業務」といった在留資格は、特定の活動(許可された職務内容)を行うことを前提として日本での在留が許可されています。例えば、高度専門職のITエンジニアであれば、その専門知識を活かした業務に従事することが求められます。もし、全く関係のない分野、例えば飲食店の経営などに従事する場合は、別途「経営・管理」などの在留資格への変更手続きが必要になります。
一方、「永住者」の在留資格は、在留活動に制限がありません。これは、日本に生活の基盤を置き、社会の一員として暮らしていくことが認められたことを意味します。そのため、公序良俗に反しない限り、どのような職業にも就くことができます。ITエンジニアから農業従事者へ、研究者から起業家へといった、大きなキャリアチェンジも法的には可能です。
永住権取得後の職業選択の自由#
前述の通り、永住権を取得すると、高度専門職ポイント制度の要件や、特定の職務内容に縛られる必要はなくなります。これにより、キャリアの選択肢は大幅に広がります。
例えば、以下のようなケースも問題ありません。
- 研究職から起業へ: 大学で研究者として永住権を取得した後、自身の研究成果を事業化するために会社を設立する。
- IT分野から全く異なる分野へ: ITコンサルタントとして永住権を取得した後、長年の夢であったパン屋を開業する。
- 会社員からフリーランスへ: 企業に勤めるエンジニアとして永住権を取得した後、独立してフリーランスとして活動を開始する。
このように、永住権は個人のキャリアプランやライフプランに応じて、柔軟な働き方を実現するための強力な基盤となります。
注意点:永住権が取り消される可能性#
職業選択が自由になるとはいえ、永住権が絶対的なものではないことには注意が必要です。入管法第22条の4には、永住許可が取り消される事由が定められています。転職自体が直接の取消事由になることはありませんが、転職の結果としてこれらの事由に該当してしまうリスクは存在します。
1. 公的義務の不履行#
転職によって収入が大幅に減少し、住民税や国民健康保険料、年金などの支払いが滞る状況が続いた場合、「公的義務を履行していない」と判断される可能性があります。永住者は日本に永続的に居住することが期待されるため、納税や社会保険料の支払いは最も重要な義務の一つです。安定した生計を維持できているかは、引き続き見られるポイントです。
2. 虚偽の申請と疑われるケース#
極端な例ですが、永住許可が下りた直後に、申請時に申告していた勤務先をすぐに退職するような場合、永住許可を得るための方便として就労していたと疑われる可能性もゼロではありません。永住申請は、過去から現在、そして将来にわたって安定した生活基盤が日本にあることを示すものです。申請内容と著しく異なる行動は、慎重に行うべきです。
3. 長期間の日本からの出国#
新しい仕事が海外赴任を伴うなど、長期間日本を離れる場合は注意が必要です。みなし再入国許可の期限(出国後1年)を超えて日本国外に滞在すると、永住権は失効します。また、有効な再入国許可を得て長期間出国した場合でも、生活の基盤が日本にないと判断されれば、将来的に在留カードの更新などで不利な状況になる可能性があります。
4. 法令違反#
当然のことながら、転職後も含め、日本での生活において法律を遵守することは絶対条件です。交通違反の繰り返しや犯罪行為などがあった場合は、永住権の取消しや、退去強制の対象となることがあります。
まとめ#
高度専門職(HSP)経由で永住権を取得した後、全く異なる職種に変更することは原則として全く問題ありません。永住権は、在留活動の制限をなくし、日本でより自由にキャリアを築くことを可能にするためのものです。
しかし、その自由には責任が伴います。永住者として、納税や社会保険料の支払いといった公的義務を誠実に果たし、日本の法令を遵守し、安定した生活を維持することが大前提です。これらの義務を果たしている限りにおいては、ご自身の希望するキャリアパスを安心して歩むことができるでしょう。永住権取得はゴールではなく、日本社会の正規の構成員として新たなスタートを切るための重要な一歩と捉えることが大切です。