日本での長期入院が在留資格審査の生活安定要件に与える影響について#
日本で生活を送る外国人住民にとって、予期せぬ病気や怪我による長期入院は、健康面だけでなく在留資格(ビザ)の更新や変更、特に永住権申請においても大きな不安要素となります。入管法上の審査基準の一つである「独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有する(独立生計要件)」に対し、入院による収入の減少や空白期間がどのように影響するのか、客観的な視点から解説します。
独立生計要件の本質的な意味#
まず、入管審査における「独立生計要件」が何を求めているのかを理解する必要があります。これは単に高年収であることを求めているわけではありません。日常生活において公共の負担にならず、かつ、その有する資産や技能等から見て将来において安定した生活が見込まれることを意味しています。
したがって、一時的な収入の減少があったとしても、それが将来にわたって継続するものではなく、回復後に再び安定した収入を得られる見込みがあれば、直ちに不許可の理由になるわけではありません。審査官は「過去の事実」だけでなく「将来の安定性」を総合的に判断します。
長期入院と年収要件の関係#
永住権申請などでは、直近数年間の年収が審査対象となります。長期入院により休職し、給与が支払われない期間が生じた場合、年間の課税所得が減少することは避けられません。
ここで重要なのは、収入減少の「理由」と「補填状況」です。 単に自己都合で退職して無職になった場合と異なり、病気や怪我による休職は酌むべき事情として考慮される余地があります。また、健康保険から支給される「傷病手当金」を受給していた場合、これは課税所得には含まれませんが、生計を維持するための収入源として説明資料に加えることができます。
「入院により年収が下がったから申請が通らない」と短絡的に考えるのではなく、なぜ年収が下がったのか、そして現在は復職して安定した収入に戻っていることを、客観的な資料(在職証明書や給与明細、医師の診断書など)を用いて立証することが重要です。
社会保険の利用と「公的負担」の考え方#
日本には「高額療養費制度」など、医療費の自己負担を軽減する仕組みがあります。こうした制度を利用することが、入管審査でマイナスになるのではないかと懸念されることがあります。
結論から言えば、健康保険に基づく正当な権利としての給付(高額療養費や傷病手当金など)を受けることは、審査において不利益にはなりません。これらは保険料を支払っている加入者の権利だからです。
一方で注意が必要なのは「生活保護」です。生活保護を受給することは、自力で生計を維持できていないとみなされ、独立生計要件を満たさないと判断される可能性が極めて高くなります。長期入院が原因であっても、生活保護に頼らざるを得ない経済状況である場合は、在留資格の審査、特に永住申請においては非常に厳しい評価を受けることになります。
審査における「居住実績」への影響#
長期入院に関連してもう一つ留意すべき点は、物理的な居住実態です。日本国内の病院に入院している場合は、日本に在留しているとみなされるため、居住実績が途切れることはありません。
しかし、治療のために母国へ長期間帰国し、現地で入院・療養をした場合は注意が必要です。例えば年間で100日以上、あるいは連続して3ヶ月以上日本を離れた場合、生活の拠点が日本になかったと判断され、永住申請に必要な「引き続き10年以上」という居住要件がリセットされる可能性があります。治療の場所が日本国内か国外かは、審査結果を大きく左右する要因となります。
申請時に提出すべき追加資料#
長期入院の経歴がある状態で更新や永住申請を行う場合は、通常の提出書類に加えて、事情を説明する「理由書」の添付が不可欠です。
- 入院の経緯と期間: いつからいつまで、どのような理由で入院していたか。
- 生計維持の方法: 入院中の生活費や医療費をどのように賄ったか(貯蓄、保険金、家族のサポートなど)。
- 現在の状況と将来の見通し: 完治または就労可能な状態まで回復していることの医師の診断書、および復職証明書。
これらを論理的に説明し、現在は健康で安定した就労が可能であることをアピールすることで、審査官の懸念を払拭する必要があります。
まとめ#
日本での長期入院が在留資格審査に与える影響は決して小さくありませんが、それだけで直ちにビザが失われたり、永住権が拒否されたりするわけではありません。重要なのは、一時的な困難を乗り越え、再び日本社会の一員として安定した生活を送れることを証明することです。制度の趣旨を正しく理解し、誠実かつ詳細な説明を行うことが、審査を有利に進めるための鍵となります。