経営管理ビザにおいて法人から個人事業主へ変更する際のリスクと注意点#

日本の在留資格「経営・管理」を取得して事業を行っている外国人経営者の中には、経営上の理由やコスト削減の観点から、株式会社や合同会社といった「法人」形態を解散し、「個人事業主」へと組織変更を検討するケースがあります。

しかし、入管実務の観点からは、この変更は単なる組織再編ではなく、事業規模の縮小や経営不振による「格下げ」とみなされるリスクが高い行為です。本記事では、法人から個人事業主へ切り替える際に生じる具体的なリスクと、審査において重要視されるポイントについて客観的に解説します。

なぜ「格下げ」とみなされるのか#

日本のビジネス慣習および入管法の審査基準において、法人(株式会社など)は個人事業主よりも社会的信用性が高いと判断される傾向にあります。法人は登記が義務付けられており、資産と経営が分離され、経理処理も厳格であることが一般的だからです。

一度法人として許可を得た後に個人事業主へ戻るということは、一般的に「法人を維持するだけの利益が出ていない」「社会保険料や税務コストを負担しきれない」というネガティブな理由による変更ではないかと疑念を持たれやすくなります。入管当局は事業の「安定性」と「継続性」を最重要視するため、組織的な後退は審査においてマイナス要因として働きます。

500万円の出資規模の立証難易度#

「経営・管理」ビザの要件の一つに「500万円以上の規模」というものがあります。法人であれば、貸借対照表の「純資産の部(資本金等)」によって、この規模が維持されているかどうかを比較的明確に判断できます。

一方、個人事業主の場合、「資本金」という概念が存在しません。そのため、事業開始時や更新時において、500万円以上の投資が事業に投下され、かつ維持されていることを証明するのが技術的に難しくなります。法人の解散に伴い資本金を取り崩して生活費に充ててしまったとみなされれば、ビザの更新や変更が不許可になる可能性が高まります。個人事業主になった後も、事業用資産として500万円相当が確保されていることを客観的な資料で証明する必要があります。

社会保険加入義務とコンプライアンス#

法人から個人事業主への変更が「コストカット目的」と判断される最大の要因は、社会保険(健康保険・厚生年金)の扱いです。法人は社長一人であっても社会保険への加入が強制適用されますが、個人事業主の場合は従業員が5人未満であれば強制適用の対象外となるケースが多くあります(業種によります)。

入管当局は、外国人が日本で事業を行うにあたり、日本の法令を遵守しているかを厳しく審査します。法人であれば当然加入していた社会保険から外れることになる場合、それが単なる「社会保険料逃れ」であると解釈されれば、在留状況の不良とみなされるリスクがあります。個人事業主であっても、法令に則った適切な保険制度への加入や納税義務の履行が不可欠です。

事業所の確保と独立性#

個人事業主へ変更する際、自宅兼事務所への移行を検討するケースも多く見られます。しかし、「経営・管理」ビザでは「事業所の確保」が必須要件です。法人名義で賃貸借契約を結んでいた物件を解約し、個人宅で事業を行う場合、居住スペースと事業スペースが明確に区分されているか、看板が掲げられているか、光熱費の按分は適正かなどが厳しくチェックされます。法人時代よりも、事業所の独立性に関する立証責任が重くなると考えるべきです。

合理的な理由の説明責任#

法人から個人事業主への変更が認められるためには、その変更が事業の存続と発展のために不可欠であり、かつ合理的な経営判断であることを説明しなければなりません。単に「赤字だから規模を縮小する」という理由だけでは、事業の継続性に疑義が生じます。

「特定のプロジェクトに特化するために組織をスリム化する」「一時的に固定費を下げて次なる投資に備える」といった前向きかつ具体的な事業計画が必要です。そして、その計画が現実に即しており、将来的に再び事業が拡大する見込みがあることを、数字を伴った事業計画書で示すことが求められます。

まとめ#

法人から個人事業主への変更は、法律上禁止されているわけではありませんが、入管審査においては「事業の縮小」「経営基盤の弱体化」と捉えられやすい非常にデリケートな変更です。500万円の規模要件の維持、社会保険の取り扱い、事業所の独立性など、クリアすべき課題は多岐にわたります。安易な変更は在留資格の喪失につながる可能性があるため、客観的かつ合理的な理由付けと、それを裏付ける緻密な資料の準備が不可欠です。


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