帰化申請と永住許可申請を同時に行うことは可能か#
日本に長期間在留している外国人の方々にとって、将来的な地位の安定を考えた際、「日本国籍を取得する(帰化)」か、それとも「現在の国籍のまま永住権を取得する(永住許可)」かという選択は非常に大きな悩みどころとなります。
結論から申し上げますと、帰化申請と永住許可申請を同時に並行して行うことは、法律上禁止されておらず、制度的には「可能」です。しかし、そこにはメリットとデメリット、そして実務上の複雑な注意点が存在します。
本稿では、制度の仕組みを整理した上で、両方を同時に申請する場合のリスクと効果について客観的に解説します。
制度的な違いと申請先#
まず理解しておくべき前提は、帰化と永住は管轄する行政機関が異なるという点です。
- 帰化申請: 法務省の管轄であり、申請先は住所地を管轄する「法務局」です。許可されれば日本国籍を取得し、元の国籍を離脱することになります。
- 永住許可申請: 出入国在留管理庁(入管)の管轄であり、申請先は「地方出入国在留管理局」です。許可されれば、現在の国籍を維持したまま、在留期限の制限なく日本に住むことができます。
このように窓口が異なるため、システム上で自動的に一本化されるわけではありません。したがって、それぞれの窓口に対して個別に申請書類を提出する必要があります。
同時並行申請のメリット#
最大のメリットは「保険」としての役割と「時間の短縮」です。
1. リスクの分散#
帰化と永住は審査基準が異なります。例えば、帰化は日本語能力や日本社会への定着度がより重視される一方、永住は経済的な安定性や過去の公的義務(税金・年金など)の履行状況が厳格に見られます。片方の審査基準には満たなくても、もう片方であれば許可される可能性がある場合、両方申請しておくことで、どちらか一方でも許可を得て在留の安定を図るという戦略が考えられます。
2. 審査期間の活用#
現在、永住許可申請の審査期間は長期化の傾向にあり、帰化申請も面接等を含めると許可まで1年近く、あるいはそれ以上かかることが一般的です。どちらにするか迷って時期を逸するよりは、両方進めることで、結果が早く出た方を選択する、あるいは永住を取り急ぎ取得してから帰化の結果を待つといったタイムスケジュールの最適化が可能になります。
同時並行申請のデメリットとリスク#
一方で、実務的な負担やリスクは決して小さくありません。
1. 書類収集の負担が2倍になる#
管轄が異なるため、提出書類をそれぞれの機関に原本で提出する必要があります。本国の出生証明書、婚姻証明書、納税証明書など、多くの書類を2セット用意しなければならず、取得にかかる手数料や翻訳の手間、時間は単純に倍になります。
2. 申請内容の整合性(これが最大のリスク)#
最も注意が必要なのが、法務局(帰化)と入管(永住)に提出する書類の内容の整合性です。 例えば、履歴書(居住歴や職歴)や親族関係の記述において、両者の内容に矛盾があってはいけません。法務局と入管は連携して調査を行う場合があるため、一方で申告した事実ともう一方で申告した事実に食い違いがあると、虚偽申請の疑いを持たれ、両方とも不許可になるリスクが高まります。過去の出入国歴や職歴の細部に至るまで、完全に一致させる緻密さが求められます。
3. 申請理由の矛盾#
面接や理由書において、帰化では「日本人として骨を埋める覚悟」を示し、永住では「外国籍のまま日本に永住する意思」を示すことになります。審査官から「同時に申請しているようだが、結局どちらが本意なのか?」と問われた際、合理的な説明ができなければ、心証を悪くする可能性があります。
どちらかが許可された場合の取り扱い#
同時申請を行い、結果が出た場合のプロセスは以下のようになります。
先に「帰化」が許可された場合#
日本国籍を取得した時点で、外国人としての在留資格は消滅します。したがって、入管で行っている永住許可申請はその時点で審査する意味を失いますので、速やかに永住申請を取り下げる必要があります。そもそも日本国民になれば在留資格は不要となるからです。
先に「永住」が許可された場合#
永住権を取得した後も、帰化申請は継続されます。永住者として日本に住みながら、引き続き帰化の審査結果を待つことになります。もしその後帰化が許可されれば、永住者としての地位から日本国民へと移行します。逆に帰化が不許可になっても、永住権は(虚偽等がなければ)維持されます。
まとめ#
帰化と永住の同時申請は、制度上可能であり、確実な地位安定を求める方にとっては有効な選択肢となり得ます。しかし、膨大な書類作成の労力と、二つの行政機関に対して矛盾のない事実証明を行い続ける厳密さが求められます。
ご自身のライフプランにおいて「国籍を変えること」の意味と「現在の国籍を維持すること」の重要性を天秤にかけ、単なる許可の確率論だけでなく、将来のアイデンティティも含めて慎重に検討することが推奨されます。